養蚕に関する絵馬
毘沙門堂に奉納された養蚕の豊作を祈願した絵馬は、必ずムカデが描かれているところに特徴があります。養蚕の豊作祈願は、蚕の大敵であるネズミ除けの信仰でもあります。もっとも有名なのは招き猫に代表されるネコに対する信仰です。これに対してムカデを養蚕の神さまにする例はほとんどありません。
福応寺毘沙門堂に祀られる毘沙門天は、多様な信仰の対象となる仏ですが、その一つとして養蚕の神としての側面を持っています。この毘沙門天の眷属神、神の使者となる動物としてムカデがあります。そのため、養蚕の豊作を毘沙門天に願うことから、ムカデの絵馬が毘沙門堂に納められるようになったと考えられます。
一方、ムカデは養蚕の大敵であるネズミがその匂いを嫌うという言い伝えがあります。また、福応寺毘沙門堂がある山は、岩がちでムカデがたくさん棲んでいた、ともいわれています。こうしたことから、毘沙門堂と養蚕信仰が結びつきたくさんの絵馬が奉納されるようになりました。
1 養蚕に関する絵馬
養蚕の様子や「養蚕安全」の文字など、直接的な養蚕の豊作祈願の表現がある絵馬です。345枚と、全体の2%にも満たない絵馬ですが、養蚕信仰の絵馬であることをよく示しています。
2 文字と絵でムカデを表す絵馬
ムカデを表す「百足」や「蜈蚣」の字を、ムカデの姿とともに描いた絵馬です。文字でムカデを示す絵馬は全体の1割ほどしかなく、珍しいものです。
3 ムカデのみを描く絵馬
文字通りムカデの姿を描くもので、一匹のムカデを描くものは少なく、多くは数匹のムカデが描かれています。
4 ムカデと毘沙門堂のお祭りを描く絵馬
ムカデの絵馬は旧暦4月3日に行われる毘沙門堂の祭礼で奉納されました。数は158枚と少ないのですが、鳥居の両脇に幟が立ち、人々が参詣する様子や、時にはムカデが参詣しているように見える構図でも描かれています。
5 2匹のムカデと鳥居を描く絵馬
鳥居に向かう二匹のムカデを描くこの構図は絵馬全体の4分の1を占めています。このように同じ構図で多く描かれているのは、新たな絵馬を描く際、前の年に神社から借り受けた絵馬を参考にしたためとも考えられます。
6 ムカデと鳥居を描く絵馬
鳥居と二匹のムカデを描くものと同系の構図で、二匹ではなく、一匹から何匹ものムカデを描く構図があります。先の構図とともに、鳥居が毘沙門堂を象徴していることをうかがわせます。
7 ムカデとお堂など人工物を描く絵馬
鳥居以外にも建造物を描くことで毘沙門堂を表現している絵馬があります。この画像のような石塔のほか、祭礼時の受付となる長床などが描かれる場合もあります。また、祭礼に行く際、阿武隈川を渡し船で渡ったという話に由来して、船を描くものもいくつかあります。
8 ムカデと山・岩を描く絵馬
分類上もっとも点数が多いのは、山や岩場を描くものです。7298枚を占めます。毘沙門堂の裏山は岩山でムカデが多数住んでいるといわれており、その様子を描いています。
9 ムカデと草など自然物を描く絵馬
岩の代わりに草や花などの自然物を描く絵馬があります。また、魚を描く絵馬もあります。毘沙門堂の祭りに小鮒を奉納すると眼病に効くという信仰があることから、これらは養蚕と眼病治療の信仰をまとめた絵馬といえます。
10 漢字で百足と書く絵馬
ムカデを漢字で表現する絵馬は、単に百足と描くだけではなく、絵馬の盤面全体に字を配したものや、百足以外の字を混在させたものなどがあります。
11 百足以外の字を書く絵馬
ムカデは百足以外では蜈蚣の字を書きます。この分類の多くは蜈蚣の字が書かれていますが、これ以外にもひらがなで「むかで」と記すものなどがあります。