武芸に秀でた集団として成立した「武士」たちが、絵画を愛で、ときに自ら描く行為は、すぐにイメージが結びつかない方もいるかもしれません。しかし彼らの周りには、ある時は居住空間や儀礼の場を為政者として相応しく彩るものとして、またある時は家の由緒・系譜を示すものとして、またある時は昔の戦を知り、学ぶものとして、武士の職能や生活上の必要性からも多くの絵画の存在がありました。泰平の世となった近世、軍事(「武」)のみならず政治(「文」)の中枢を担う存在として「文武両道」を求められた武士たちは、武芸だけでなく学問に励み、為政者の嗜みとして歌道や茶道など様々な芸を身に付けました。また、画技に優れた絵師を抱え、自らも描くことで、文化創造の貢献者としての側面も持ちました。
本展では、みちのくの武士たちが愛で、自ら描いた絵画を紹介してその魅力に触れつつ、武士たちにとって絵画はどのような存在であったのかを探ります。
【展示構成】
第一章 武家の肖像 ―先祖のすがた―
家の正当性や系譜を物語るものとして重要な役割を果たした肖像画について、近世の武家との関わりを考えます。
第二章 伊達者(だてもの)の愛した絵画
伊達政宗の愛した絵画を初め、仙台藩の歴代藩主が描かせ、時に自ら描いた絵画を紹介します。
第三章 新たな絵画へのまなざし ―秋田蘭画を中心に―
博物学の流行によって注目され、広がった南蘋派(なんぴんは)の画風や秋田藩の小田野直武によって確立した「秋田蘭画」によって、18世紀に生まれた新たな絵画への動きを紹介します。